こちらはweb"Klavi"の1ページです。チェンバロ奏者の中田聖子が音楽をテーマに文章を綴っています。
「上と下の鍵盤、一緒に動いているみたいに見えますが...」
アンケートや頂くメールで最も多い質問です。
チェンバロの鍵盤は、上鍵盤と下鍵盤、一緒に動くように見えるんじゃなくて、一緒にも動きます (笑)
チェンバロのしくみは、私がお答えするよりも、チェンバロ製作家さんのサイトを御覧になられた方が、 分かりやすいと思うので、詳説は割愛致しますが、 ヒストリカル・チェンバロの二段鍵盤式の楽器には、 通常、上鍵盤と下鍵盤に、同じ高さの音がする弦 (8'弦と呼ぶ)がそれぞれ張られています。
... 又、たいていの二段鍵盤チェンバロの下鍵盤には、 オクターブ高い音の弦(4'弦と呼ぶ)も張られているのですが、この話は、今回は蛇足なり。
下鍵盤と上鍵盤、同じ高さの音が出るのですが、
(☆ 二段も鍵盤があって、音域が広いんですねーと言われますが、 エレクトーンのような仕組みではないことも、蛇に足を生やしておこう(笑) )
それぞれ微妙に音色が違うように、調整されています (通常は。)
8'弦1本でも、演奏しますが、より分厚い音で演奏したい時に、 上鍵盤と下鍵盤を一緒に動かすレジスターを用い、8'弦2本を鳴らして演奏します。
これが「上鍵盤と下鍵盤が一緒に動いている」状態での演奏です。
ちなみに、下鍵盤をぐっと押し込むことで、上下連動させる仕組みになっている楽器が、 最近では多く作られているように思います。どのような操作で連動するのかは、本当は楽器によって異なります。
プレイヤーの近くの席に座られた方は、そんなところも、演奏会で見てみてください(^^)
またまた蛇足ながら、4'弦を加えた音色で演奏することもあります。
通常
・ 下鍵盤の8'弦+4'弦
・ 上下鍵盤の8'弦2本+4'弦
という音色の使い分けがあります。
これに加えて、チェンバロには、
・ 上鍵盤の8'弦1本
・ 下鍵盤の 〃
・ 上下鍵盤の8'弦2本
・ バフストップ(ミュートをかけたような音がする)を用いた8'弦
(☆楽器によってバフがかかるのは上だったり、下だったり。両方にかかる楽器もあります)
めったに使わないが、
・ 4'弦1本。
以上、7種類の音色を使い分けることが出来ます。
これに、奏者の指先で弾き分ける音色が、各々に、無限に加わります(^^)
「へぇーチェンバロの奏者なんですかー」
「チェンバロって大きい楽器ですよね」
「持ち運ぶの大変でしょう?」
いずれも私は「はい」と答える。
チェンバロを御存知なのだと内心嬉しく思いながら、返事をする。
「チェンバロってね、オーケストラのしか聞いたことなくて、独奏って聞いたことないんですよね」
あーそうですか (^^) と答えながら、
おぉ、バロック音楽を生演奏で聴かれたことがあるんだなぁ~
とこれまた嬉しく思う。
「こう、沢山のチェンバロの人がオケで弾いてますでしょ。
チェンバロって一人だと小さい音なんですか?」
は? へ? (?_?)
ここで、私は、相手が、チェンバロとチェロとを間違えてらっしゃることに、はじめて気付く。
音楽好きなんですよ(^^) とおっしゃって、お話が弾むことも多いが、
まだまだチェンバロという楽器を御存知の方は少ないと痛感する。
「チェンバロはね、弦は張ってありますけれども、鍵盤楽器なのですよ(^^)」
チェンバロ cembalo (独)は、フランス語ではクラヴサン Clavecin、
英語ではハープシコード Harpsichordと呼ぶ、
ピアノが産まれる前に盛んに用いられた鍵盤楽器である。
形状はピアノの前身なのだが、内部構造が違う。
ピアノは、弦をハンマーで打って音を出すのだが、チェンバロは弦を爪がはじいて音を出す。
鍵盤の先...これは楽器の中に入っているものだから、外からは見えないけれども、
先に繋がるものが、爪なんですよ。
私は説明が上手ではないので、大抵「?」な顔をされる。
一度見て頂けたら、疑問は一気に吹っ飛ぶと思うのですが f(^^;;
「どんな音なのですか?」
音の種類は、弦をはじいて音を出すので、ハープやギターやお琴...と似通っていますが、
これまた聴いて頂くのが一番良いかと... 良かったら一度、演奏会にお越しくださいな(^^)
勿論、宣伝目的など持たずにチェンバロのお話をするのだが、
最後に宣伝するしかないや...となることが多い...。
人の良い方や、本当に「チェンバロってどんな楽器なの?」と思われた方は、
社交辞令でなく、実際に演奏会に足を運んで下さる方も多い。
「チェンバロ お初」が私の演奏となる方がおられる...奏者として責任重大。
チェンバロ自体のイメージを良しとするか悪しとするかは、私の演奏次第...
チェンバロという楽器を一人でも多くの方に知って頂きたい...と思ったと同時に、
重大な責任を負ったのだと、私は思っている。
(2000)