Who is he?

今日は自宅の楽器を今年初 調律致しました。自宅のmy楽器は2002年百瀬氏製作のタスカンです。オリジナルはP.Taskinの1769年の楽器です。今年のリサイタルのプログラムは、半分がフランス作品ですが、作品の成立年代と少々ズレがあるとは言え、やはりフレンチを弾くと鳴りが「本領発揮!」という気がいたします。Forquerayでは一番鳴りが良い。
 18世紀のフランス作品には、ひとの名前のついている作品が多く存在しています。そういった作品をポルトレと言って、人物を描写しているのだと言われるのですが、今回弾くフォルクレ Forquerayの組曲にも、多くのピースにひとの名前が付いています。音楽家だったり、貴族のどなたかだったり・・・。
 私はそういった作品と向き合う度に、何故人物名が付いているのだろうかといつも考えます。勿論、それが誰をさしているのかを最初に調べます。音楽家であれば話は簡単。どういう人物であるか、勿論音楽辞典を調べればすぐ分かるし、チェンバリストの場合はチェンバロ曲を一曲も残していない音楽家であっても、たいてい何らかの編成でコンティヌオ(通奏低音)を弾くので、音楽からどんな人物であったかは分かります。問題なのは音楽家以外の場合。そもそも「ポルトレ」と言っても、音楽学的一般見解からはずれますが、様々な事由でその作品が生まれたと私は考えています。よく言われるシチュエーションは、サロンの主催者である貴族に敬意を示すために書かれたというものですが、場合によってはオマージュであったり、サロンの重要なお客様に対して作品が生まれたこともあるでしょう。現代風のマーケットを考えたならば、もしかしたら出版に際して生まれた経緯も可能性はゼロではないように思います。よくありますでしょ、修復の為の一口おいくらでお名前を何処何処に入れます... といったカンパ制が。それを考えたら夢がなくなりますが、私は現代っ子なので、そんなこともあったかもしれないとつい考えてしまいます。冗談はさておき、音楽家以外の人物、私が全く知らなくても、科学アカデミーのメンバーや 公証人であった人など、実は物凄く有名な人の名もあるのではないかと思うのです。それこそ日本人は知らなくても、EU圏では皆が知っている人であったり、その分野では凄い人。そういった方々のことも今後は調べたいと思っています。それは本業のようであり、演奏とはワン・クッション置いたところのことですから、単なる自己の興味だけで行うことでもあります。
 正直・・・こう思うのです。チェンバロ作品に興味を持ってくださって演奏会にいらしてくださる方の中には、宮廷文化などがお好きだったり興味をお持ちの方もおられるだろうけど、このテの作品には「誰?」と思う名の付いたピースがある。途端に縁遠いものとなってしまう...。しかし、少しでも具体像が分かればその距離は縮まる。・・・自分がそうだったのです・・・私は知識が無い者の代表だと思っているのですが、手ほどきをしてくれた先生の演奏会に行ってもタイトルで縁遠いと感じていた作品が多かった。チェンバロや、この楽器の為の作品を日本でも身近な存在として御紹介していくには、どんなことをすれば良いのだろうかと考えるのはチェンバロ奏者の仕事であると思うのです。